「また店舗のスタッフが辞めてしまった……」
「採用しても定着せず、現場の負担が増える悪循環から抜け出せない」
人手不足が続く小売業では、スタッフの離職防止と店舗運営の両立が、人事部・店舗運営部にとって大きな課題です。店舗型ビジネスでは、1人の退職で残ったスタッフの負担が増え、その負担が次の離職を生む連鎖も起こりがちです。
しかし、離職率や退職者数だけを追っていると、対策はいつも「辞めた後」になります。離職を未然に防ぐには、離職という結果の手前で起きている変化をつかむ必要があります。
本記事では、小売業の現場に30年携わってきた執筆者の視点から、小売業の離職率の現状と、離職率の改善につながる3つの先行指標(KPI)、そして慢性的な人手不足への備え方を解説します。
小売業の離職率は何%?最新データで見る現状
厚生労働省「令和7年雇用動向調査」(2026年8月公表)によると、卸売業・小売業の離職率は11.9%でした。全産業平均の13.7%より低い水準で、前年の15.1%からも改善しています。
ただし、就業形態別に見ると状況は変わります。
| 区分 | 卸売業・小売業 | 全産業平均 |
|---|---|---|
| 全体 | 11.9% | 13.7% |
| 一般労働者(正社員など) | 8.5% | 11.4% |
| パートタイム労働者 | 17.6% | 19.9% |
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」
パートタイム労働者の離職率は一般労働者の約2倍です。卸売業・小売業は働く人の約4割がパートタイム労働者で、年間の離職者数は約112万人と、医療・福祉に次いで2番目に多い産業でもあります。率だけを見て「うちの業界は低いから大丈夫」とは言えないのが、小売業の実情です。
新卒3年以内の離職率も、小売業は全産業で上位
若手の定着にも課題があります。厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は大卒全体が33.8%のところ、小売業は40.4%で、産業別で5番目の高さです。高卒でも全体37.9%に対し、小売業は48.3%にのぼります。
離職率が高い店舗にどのような特徴があるのかは、小売業の離職率が高い店舗に共通する5つの特徴で詳しく解説しています。本記事では、離職率を「測って下げる」ための指標に絞ってお伝えします。
離職率・定着率の計算方法
自社の数字を業界と比べる際は、計算方法をそろえておきましょう。雇用動向調査では、次の式で離職率を算出しています。
離職率(%)= 期間中の離職者数 ÷ 期首(1月1日時点)の在籍者数 × 100
正社員とパート・アルバイトを分けて算出すると、どこに課題があるかが見えやすくなります。
離職率と対になる指標が「定着率」です。定着率は、ある時点で在籍していた人のうち、一定期間後も在籍している人の割合を指します。
定着率(%)= 期間後も在籍している人数 ÷ 期首の在籍者数 × 100
期首の在籍者を基準にすると、定着率は「100%-離職率」とおおむね一致します。新卒や中途の入社者を基準に「入社1年後の定着率」として測ると、採用と育成の成果を確認する指標になります。
なぜ「離職率」だけを見ていても改善しないのか
年間離職率や月間退職者数は、あくまで「結果」を示す遅行指標です。数字が悪化してから対策を始めても、現場ではすでに人員不足、業務負担の増加、採用コストの発生が進んでいます。1人の退職がどれだけの損失になるのかは、小売業の人手不足コストはどう計算する?で計算方法を紹介しています。
そこで役立つのが「先行指標」です。先行指標とは、結果(離職)より先に変化が表れる数字のことで、離職の兆候(サイン)を早い段階でとらえられます。
小売業の現場では、日々の小さな不満や負荷が積み重なって離職につながります。人事部・店舗運営部が確認したいのは、「なぜ辞めたのか」だけでなく「辞める前に何が起きていたのか」です。たとえば次のような点です。
- 入社後のフォローは十分だったか
- 希望するシフトで勤務できていたか
- 特定のスタッフに勤務負担が集中していなかったか
- 店長や上司に相談できる環境があったか
実際、同じ雇用動向調査では、転職者が前職を辞めた理由として、女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(12.9%)、「職場の人間関係が好ましくなかった」(11.5%)が上位に入っています(全産業)。
当社が流通・小売業界で働いた経験のある100名に行った調査でも、長く続けられる職場に必要なこととして、給与・時給の改善(61.0%)に次いで「良好な人間関係」(46.0%)、「シフトの柔軟さ」「十分な人員」(各45.0%)が挙がりました。シフト、人間関係、人員体制は、店舗運営の工夫で動かせる領域です(詳細は【調査】小売現場の定着率を左右するのは給与だけではない)。
小売業の離職防止に効く3つの先行指標KPI
小売の店舗運営では、次の3つを先行指標として定点観測すると効果的です。
① 早期離職を防ぐ「入社3ヶ月以内の離職率・オンボーディング進捗率」
見るべきポイント:入社後、スタッフが職場に馴染めているか
入社直後は、業務や人間関係に慣れるまでの最も不安定な時期です。十分なフォローがないまま業務を任されたり、分からないことを相談できない状態が続いたりすると、早期離職につながります。
当社がこれまで小売業の店舗運営を支援してきた中でも、辞めてしまうスタッフの多くは、入社後の初期フォローが手薄な時期や、店舗の人員に余裕がない時期に集中していました。実際に、入社後間もないスタッフから「誰に聞けばよいのか分からない」「忙しそうで質問しづらい」といった声が聞かれるケースがありました。特に店舗の人員に余裕がない時期は、教育や声掛けが後回しになりやすく、結果として「自分はこの職場に向いていない」と感じて早期退職につながってしまうのです。
設定KPI例
- 入社30日・60日・90日時点での面談実施率(=実施した面談数 ÷ 予定していた面談数 × 100)
- 習得スキル項目のクリア率(=クリアした項目数 ÷ 期間内に習得予定の項目数 × 100)
- 入社3ヶ月以内の離職率(=3ヶ月以内に退職した人数 ÷ 同期間の入社人数 × 100)
面談は実施したかどうかだけでなく、面談で把握した悩みや業務上の課題を、その後の教育やフォローにつなげられたかまで確認しましょう。相談役の先輩スタッフをつけるメンター制度や、採用時に仕事の大変な面も正直に伝えて入社後のミスマッチを防ぐことも、早期離職の防止に効果があります。
② 労働条件の不満を防ぐ「シフト希望充足率と労働時間の偏り」
見るべきポイント:希望通りの働き方ができているか、特定のスタッフに負担が集中していないか
希望休が通らない、土日祝日のシフトが固定されるといった勤務条件への不満は、積み重なると離職の引き金になります。前述の当社調査でも、働くうえでの不安として「土日祝・年末年始に休みにくい」を挙げた人が38.0%にのぼりました。また、パート・アルバイトのシフト不足を正社員や一部のスタッフの長時間労働で埋め続けると、店舗全体が疲弊します。
設定KPI例
- シフト希望充足率(=希望どおりに組めたシフト数 ÷ 提出されたシフト希望数 × 100)
- 月間の時間外労働時間(スタッフ別・店舗別。法律上の上限は原則として月45時間・年360時間)
- 店長・リーダー層への労働時間の偏り(例:残業時間の上位3名が店舗全体の残業時間に占める割合)
数値が悪化している場合は、次のどれが原因かまで掘り下げます。
- 採用人数が不足しているのか
- シフト作成の方法に問題があるのか
- 特定のスタッフに負担が集中しているのか
③ 人間関係の不満を拾う「店長・マネジメント層との面談実施率」
見るべきポイント:現場の悩みがタイムリーに吸い上げられているか
「上司に相談しづらい」「自分の頑張りが評価されているか分からない」といった状態が続くと、職場への不満が静かに蓄積します。店舗運営が忙しい中でも、スタッフと定期的に対話する機会(1on1など)を設けることが、離職の芽を早く摘むことにつながります。相談しやすい雰囲気(心理的安全性)は店長の関わり方で大きく変わるため、面談の進め方やフィードバックの仕方を学ぶ店長向けの研修も有効です。
設定KPI例
- 月あたりの店舗スタッフ面談実施率
- 従業員サーベイ(パルスサーベイ等)で測るエンゲージメントスコアの推移
- 面談後のフォロー実施率(=フォローまで完了した件数 ÷ 面談で挙がった課題数 × 100)
ここでも実施率だけで満足せず、面談で把握した課題が改善につながっているかまで追うと、管理の実効性が高まります。
KPIを「見るだけ」で終わらせない運用のコツ
KPIは記録するだけでは離職防止につながりません。数値が悪化したときに「何が起きているのか」をすぐ確認できるよう、KPIと確認項目をセットにしておきましょう。
| KPI | 数値悪化時に確認したいこと |
|---|---|
| 入社3ヶ月以内の離職率 | 教育・面談・配属後のフォロー状況 |
| シフト希望充足率 | 店舗の人員配置・採用状況 |
| 時間外労働時間 | 欠員状況・業務量・特定スタッフへの負担 |
| 面談実施率 | 店長・管理者の業務負担、面談時間の確保 |
KPIを「結果を見るための数字」ではなく、店舗運営上の課題を見つけるサインとして使うことが、離職率改善の近道です。
KPI別・小売店舗でできる離職防止の取り組み例
数値が悪化したKPIに応じて、取り組みを選ぶと効果が出やすくなります。
| 悪化したKPI | すぐにできる取り組み | 中長期の取り組み |
|---|---|---|
| 入社3ヶ月以内の離職率 | 30・60・90日面談の実施、メンターの指名 | 教育マニュアルとスキルチェック表の整備、採用時の仕事内容の正直な説明 |
| シフト希望充足率 | 希望休の提出ルールの見直し、近隣店舗からの応援 | 時間帯別の人員計画、繁忙期の外部人材の活用 |
| 時間外労働・負担の偏り | 業務の棚卸し、教育担当やクレーム対応の分散 | 欠員時の応援手配の仕組み化 |
| 面談実施率・サーベイスコア | 面談の時間をあらかじめシフトに組み込む | 店長向けの面談研修、売上以外の貢献も評価する制度づくり |
KPIの集計には、勤怠管理システムやシフト管理システム、パルスサーベイなどの離職防止ツールを使うと、店舗ごとの数字を手間なく追えます。
小売業の離職防止は「採用」だけで考えない
人手不足になると、企業は「どうすれば応募者を増やせるか」という採用面に目を向けがちです。しかし採用しても短期間で辞めてしまえば、再び採用活動が必要になり、コストと現場の負担だけが積み上がります。
採用そのものの改善策は、求人を出しても応募が来ない小売業の共通点とは?やアルバイトが集まらない原因とは?でまとめています。正社員や経験者を直接雇用したい場合は、有料職業紹介を使う方法もあります。
そのため、次の流れを一連のものとして設計しましょう。
採用 → 定着 → 人員配置 → 店舗運営
小売業では、店舗ごとに人員状況や業務量が大きく異なります。全店舗を一律に管理するのではなく、店舗ごとに離職率、シフト希望充足率、時間外労働、面談状況を並べて見ると、問題が起きている店舗を早く特定でき、改善の優先順位もつけやすくなります。
慢性的な人手不足には「人材派遣」でリスクヘッジを
KPIを設定して定着施策を進めようとしても、すでに慢性的な人手不足に陥っている店舗では、施策そのものが既存スタッフの負担になってしまうことがあります。定着率向上の環境整備と並行して、一時的な人員不足や急な欠員に備える仕組みも整えておきましょう。
外部リソースを活用して既存スタッフの負担を抑える
自社採用だけで解決しようとせず、人材派遣などの外部リソースで一時的に人員を補うのも有効な選択肢です。特に次のような状況では、外部人材の活用を含めて人員体制を見直すことをおすすめします。
- 採用活動を続けているが応募が集まらない
- 急な退職で店舗の人員が不足している
- 店長や既存スタッフが欠員をカバーし続けている
- 採用できるまでの期間だけ人員を確保したい
ポイントは、人材派遣を単なる欠員補充ではなく、既存スタッフへの負担集中を防ぎ、店舗運営を安定させるための手段として位置づけることです。負担が下がれば、先ほどの3つのKPIも改善しやすくなります。
小売業に特化した当社の派遣サービスの内容は労働者派遣のページで、直接雇用と人材派遣の総コストの違いは小売業の人材コストを徹底比較|直接雇用と人材派遣で紹介しています。
よくある質問
Q. 小売業の離職率の平均は何%ですか?
厚生労働省「令和7年雇用動向調査」では、卸売業・小売業の離職率は11.9%です。一般労働者は8.5%、パートタイム労働者は17.6%で、パート・アルバイトの離職率が高い傾向にあります。
Q. 離職率を下げるには、まず何から始めればよいですか?
まずは正社員とパート・アルバイトを分けて自社の離職率を算出し、あわせて入社3ヶ月以内の離職率を確認しましょう。早期離職が多い場合は、入社後の面談とフォロー体制の見直しから着手するのが効果的です。
Q. 早期離職を減らすにはどうすればよいですか?
入社30日・60日・90日の節目で面談を行い、把握した悩みを教育やシフト調整に反映することが基本です。あわせて、教える側の店長やリーダーに余裕がなければフォローは続かないため、店舗の人員体制も確認してください。
Q. 小売業の離職率が高い原因は何ですか?
土日祝や繁忙期に休みにくい勤務形態、特定のスタッフへの負担の集中、新人教育の手薄さなどが挙げられます。店舗ごとの具体的な特徴は小売業の離職率が高い店舗に共通する5つの特徴で解説しています。
Q. 離職率と定着率の違いは何ですか?
離職率は一定期間に辞めた人の割合、定着率は一定期間後も在籍している人の割合です。同じ母数で計算すれば、定着率はおおむね「100%-離職率」になります。
まとめ:離職率だけでなく「離職につながる変化」を見る
小売業の離職率改善は一朝一夕にはいきません。退職者数や離職率という結果だけでなく、次の先行指標を継続的に確認することが近道です。
- 入社後の定着状況(入社3ヶ月以内の離職率・面談実施率)
- シフトや労働時間の偏り(シフト希望充足率・時間外労働)
- 店長・マネジメント層とのコミュニケーション(面談実施率・サーベイスコア)
また、慢性的な人手不足が続いている場合は、自社採用だけに頼らず、人材派遣などの外部リソースを活用することも選択肢になります。
「採用しても定着しない」
「慢性的な欠員で既存スタッフの負担が増えている」
「店舗ごとの人員体制を見直したい」
このような課題を抱えている場合は、離職率だけでなく、店舗の人員配置や運営体制まで含めて見直してみてください。
株式会社エムアールエスは、小売業界に特化した人材派遣会社として、店舗の人員確保や人員体制に関する課題を支援しています。小売企業の人員不足や店舗運営についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
執筆者
株式会社エムアールエス マーケティング戦略課 主任 H・O
小売業で30年のキャリアを持ち、エリアマネージャーとして多数の店舗管理を主導。経営会議への参画や全社的な販売計画書の策定を通じて、店舗現場から経営戦略まで幅広く経験。
現在は小売業界に特化した人材ソリューション事業にて、店舗運営支援や人件費・採用適正化の分析、情報発信を担当。現場視点と経営視点を融合させた情報発信を行っている。
監修者
株式会社エムアールエス マーケティング戦略課 Y・M
小売業界歴20年|店舗運営・人材育成の現場エキスパート
小売業界で20年にわたり、店長・ブロック長・エリア長・教育担当として、店舗運営と人材育成に携わる。
新店立ち上げ時のスタッフ教育、既存店スタッフの接客・CS教育、新入社員研修など、店舗現場における人材育成を幅広く経験。
全国約300店舗を対象としたCS施策や臨店指導、8店舗のエリア統括にも携わる。
ドラッグストアでは、人事部の教育担当として中途採用社員や新店従業員の教育を担当するとともに、店長として従業員管理・予算管理も経験している。
保有資格・免許
- 中学校教諭一種免許状(国語)
- 高等学校教諭一種免許状(国語)
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- 食品衛生責任者
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- レクリエーション介護士2級
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