「なぜか、あの店舗だけ離職者が多い」
「売上は確保できているのに、スタッフが慢性的に不足している」
小売業において、スタッフの定着率は店舗運営の安定性や顧客満足度に直結します。そして、同じ会社・同じ制度のもとでも、店舗によって離職の多さに差が出ることは珍しくありません。
その差を生む大きな要因の一つが、スタッフと毎日接する店長のマネジメントです。ただし、問題は店長個人の資質だけではありません。多くの店長はレジや品出しもこなす「プレイングマネージャー」で、スタッフと向き合う時間そのものが足りていないケースが多いのです。
本記事では、小売業の現場に30年携わってきた執筆者の視点から、店長のマネジメントと離職率の関係を整理し、小売企業の本社・人事部門・店舗運営部門が取り組むべき改善策を解説します。
店長のマネジメントは離職率にどう関係するのか
離職理由として多い「人間関係」
厚生労働省「令和7年雇用動向調査」によると、転職した人が前の職場を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」を挙げた割合は、男性8.9%、女性11.5%でした。給料などの収入(男性9.9%、女性8.6%)や労働条件(男性8.5%、女性12.9%)と並び、人間関係は離職の主な理由の一つです。
さらに、会社には伝えない「本当の退職理由」を見ると、人間関係の比重はもっと大きくなります。エン・ジャパンが2024年に実施した調査では、本当の退職理由の1位は「人間関係が悪い」(46%)でした。退職時に会社へ伝えた理由の1位は「別の職種にチャレンジしたい」で、人間関係の不満は表に出にくいことが分かります。
小売店舗のスタッフにとって、職場の人間関係の中心にいるのは店長です。シフトの決め方、仕事の教え方、ミスへの対応、相談への応じ方。こうした日々の関わりの積み重ねが、「この店で働き続けたいか」を左右します。
店長の多くは「プレイングマネージャー」
小売現場では、シフト勤務や繁忙時間帯への対応、接客、品出し、レジ業務など、さまざまな業務が発生します。その中で、多くの店長はプレイングマネージャーとして、自身も店舗業務を担当しています。
これは小売業に限った話ではありません。産業能率大学総合研究所の「第6回 上場企業の課長に関する実態調査」(2021年)では、課長の99.5%がプレイヤーを兼ねており、仕事に占めるプレイヤーとしての業務の割合は平均50.1%でした。管理職の仕事の半分が現場作業という状態は、多くの職場で起きています。
店長の場合はさらに、売上管理やシフト調整、欠員時の穴埋めが重なります。その結果、スタッフとの面談や日々の声かけ、業務上の悩みへの対応に時間を確保できず、スタッフの変化や困りごとに気づく機会が減っていきます。問題が表面化したときには、すでに退職の申し出につながっていることも少なくありません。
エリアマネージャーとして各店舗を見てきた中で、社員やスタッフに業務を任せることができず、店長自身が抱え込んでしまうケースでは、自身の負担が増えるだけでなく、スタッフへの指導やフォローが行き届かず、離職が続くことがありました。そこで、業務の分担や権限移譲を進め、店長がスタッフと向き合う時間を確保できる体制に見直すことで、店舗の改善につなげました。
本社が人事制度や福利厚生を整えていても、店舗でのコミュニケーションや業務上のサポートが十分でなければ、スタッフは不安や負担を抱えたまま働くことになります。
店長の本来の役割とは
店長のマネジメントを見直す前に、店長に本来どのような役割を期待しているのかを整理しておく必要があります。小売店舗の店長の役割は、大きく次の5つに分けられます。
| 役割 | 主な業務 |
|---|---|
| 人材育成 | スタッフの教育、面談、声かけ、新人のフォロー |
| 売場・顧客対応 | 売場づくり、接客品質の管理、クレーム対応 |
| 数値管理 | 売上・粗利・人件費の管理、目標の進捗確認 |
| シフト・労務管理 | シフト作成、勤怠管理、休憩・休日の確保 |
| 業務改善 | 作業手順の見直し、本社との情報共有、改善提案 |
このうち、スタッフの定着に直接関わるのが「人材育成」と「シフト・労務管理」です。しかし、現場作業に追われる店長ほど、目の前の数値管理や売場対応が優先され、この2つが後回しになりがちです。店長に何を任せ、どの業務を店長から外すのかを、本社と店舗の間で明確にしておくことが改善の出発点になります。
スタッフの定着を妨げるマネジメント上の3つの課題
スタッフの離職には、待遇や勤務条件、人間関係、業務負担、教育体制など、さまざまな要因が関係します。その中でも、店舗運営において見直したいマネジメント上の課題は、次の3つです。
① 結果だけを求め、スタッフの成長を支えられていない
売上目標の達成を求めることは、店長の重要な役割です。一方で、目標達成に向けた具体的な指導やスタッフへのフォローが不足すると、現場で働くスタッフの負担や不安が大きくなります。
売上や業務上の結果だけを確認するのではなく、目標達成に向けたプロセスやスタッフの成長にも目を向けることが欠かせません。スタッフが業務上の課題を理解し、必要なサポートを受けながら成長できる店舗ほど、人は辞めにくくなります。
② コミュニケーション不足と一方的な指示
店舗運営では、業務指示や情報共有が欠かせません。しかし、日々のコミュニケーションが指示の伝達だけに偏ると、スタッフは意見や悩みを伝えにくくなります。例えば、次のような状況です。
- スタッフからの相談を聞く時間が確保されていない
- 業務上の改善提案が受け入れられにくい
- ミスや問題が発生した際に、原因よりも結果だけが重視される
- 店長とスタッフの間で情報共有が不足している
スタッフが安心して相談できる環境をつくるには、日常的な声かけや、意見を聞く姿勢が欠かせません。月に1回でも、店長とスタッフが1対1で話す時間(1on1)を決めておくだけで、不満や悩みを早い段階で拾えるようになります。
③ 店長自身の業務負担が大きく、マネジメントに時間を割けない
店長が慢性的な人手不足や現場作業に追われている場合、スタッフへの指導やフォローは後回しになります。
本来、店長が担うべき業務には、スタッフの育成やシフト管理、業務改善、店舗全体の運営管理などが含まれます。しかし、店長自身がレジ業務や品出しなどの作業に多くの時間を費やしていると、マネジメントに集中することは難しくなります。
この状態が続くと、店長自身が疲弊し、店長やベテラン社員の離職という最も大きな損失につながりかねません。店長の負担が大きい状態を個人の努力で解決しようとするのではなく、店舗全体の業務量や人員配置を見直す必要があります。
本社・人事部門が取り組むべき3つの改善策
現場のマネジメントを改善する際、店長個人の意識やスキルだけに頼る方法には限界があります。プレイングマネージャー化は、店長個人の問題ではなく、店舗の人員体制や役割設計の問題です。本社や人事部門が、店舗の運営体制やサポートの仕組みを見直すことが改善の近道です。
① 店長の現場作業を整理し、マネジメントに集中できる環境をつくる
店長がスタッフと向き合う時間を確保するには、店舗内の業務量や人員体制を見直す必要があります。例えば、次のような取り組みが考えられます。
- 店長が担当している定型業務の整理
- レジ業務や周辺作業における人員配置の見直し
- 繁忙時間帯に合わせたスタッフの確保
- 店長に集中している業務の分担(副店長・時間帯責任者への権限委譲)
- 外部人材や派遣スタッフ、業務委託の活用
店舗の人員体制を適正化することで、店長がスタッフの育成や業務改善、コミュニケーションに時間を使いやすくなります。ここで押さえたいのは、単に人手を増やすことではなく、店舗全体の業務負担と役割分担を整理することです。
② 本社主導で店長を継続的にサポートする
店長のマネジメント力を高めるには、現場任せにせず、本社が継続的に支援する体制を整えることも大切です。具体的には、次のような取り組みが考えられます。
- 店長向けのマネジメント研修
- スタッフとのコミュニケーションに関する指導
- 労務管理やシフト管理に関するサポート
- 店舗ごとの課題や離職状況の確認
- 店長自身の負担や悩みを把握する面談
- 店舗運営部門と人事部門の情報共有
研修は一度実施して終わりにせず、エリアマネージャーの臨店時に振り返る場を設けるなど、現場で実践できているかを確認する仕組みとセットにすると定着しやすくなります。店長に対して一方的に改善を求めるのではなく、店長自身が抱える課題にも目を向けることが欠かせません。
③ 店長の評価に「スタッフの定着・育成」を加える
店長の評価が売上や利益だけで決まっていると、店長は人材育成よりも、自ら現場に入って数字を作ることを優先しがちです。
店長の評価項目に、店舗の離職率や新人の定着状況、スタッフ面談の実施状況など「人が育ち、辞めない店舗づくり」の成果を加えることで、マネジメントに時間を使う動機が生まれます。店舗別の離職率や入社3か月以内の離職率など、評価に使える指標の設定方法は、小売業の離職率を改善する3つの先行指標KPIで詳しく紹介しています。
店舗の人員体制を見直す際のチェックポイント
店長のマネジメントを支えるには、店舗の人員体制が適切に整っているかを確認する必要があります。次のような状況が続いている店舗は、人員配置や業務分担の見直しが必要なサインです。
- 店長が恒常的に現場作業を担当している
- 欠員が発生しても補充までに時間がかかる
- 繁忙時間帯にスタッフが不足している
- 店長や社員が休憩を取りにくい
- スタッフ教育が勤務時間外や空き時間に行われている
- 店舗ごとに業務負担や人員配置の差が大きい
- 店長がスタッフの相談に対応する時間を確保できない
こうした課題を改善するには、店舗ごとの状況を把握したうえで、業務量と必要人員を整理することが先決です。人員に余裕のない店舗に共通する特徴は、小売業の離職率が高い店舗に共通する5つの特徴でも解説しています。
特に、慢性的な採用難や急な欠員が発生している店舗では、採用活動だけに頼らず、外部人材の活用も含めて対応策を検討することが現実的です。欠員を放置した場合にどれだけのコストが発生しているかは、小売業の人手不足コストはどう計算する?で計算方法を紹介しています。
人材派遣・業務委託を活用した店長の負担軽減
人材派遣は、店舗の人手不足を補うだけでなく、店長や社員の業務負担を軽くする手段の一つです。例えば、レジ業務や繁忙時間帯の対応など、必要な業務に合わせて人材を確保することで、店長や社員が本来のマネジメント業務に時間を使いやすくなります。
ただし、人材派遣を導入する際には、単に人数を補充するだけでなく、次の点を確認しておくことが大切です。
- どの業務に人員が不足しているのか
- どの時間帯に負担が集中しているのか
- 店長や社員がどの業務に時間を取られているのか
- 必要なスキルや経験は何か
- 派遣スタッフの受け入れ体制が整っているか
- 店舗の運営方針や業務内容に適した人材か
派遣スタッフの教育や悩み相談を派遣会社が担えば、店長が新人教育に追われる負担も軽くなります。さらに、レジ運営のように業務の範囲がはっきりしている部門は、スタッフの教育や管理まで含めて外部に任せる「業務委託」という方法もあります。店長がレジの人員管理から離れられれば、売場づくりやスタッフの育成に集中しやすくなります。
一方で、業務委託では作業の進め方やスタッフへの指示を委託先が担うため、店長や社員が委託先のスタッフに直接指示を出すことはできません。どの業務をどこまで任せるのか、店舗側に残す判断は何かを事前に取り決めておくことで、委託後も店舗運営との連携がスムーズになります。
当社の人材派遣サービスは労働者派遣、レジ運営などの業務委託はアウトソーシングのページで紹介しています。直接雇用と人材派遣の総コストの違いは、小売業の人材コストを徹底比較|直接雇用と人材派遣をご覧ください。
よくある質問
Q. 店長のマネジメントは、店舗の離職率にどのくらい影響しますか?
離職の理由は待遇や勤務条件など複数ありますが、人間関係は退職理由として多く挙がり、会社に伝えない「本当の退職理由」では1位に挙がる調査もあります。小売店舗では店長がスタッフと最も接する立場にあるため、同じ制度のもとでも店長のマネジメント次第で店舗ごとの離職率に差が出やすくなります。
Q. 店長の役割とは何ですか?
主に、人材育成、売場・顧客対応、数値管理、シフト・労務管理、業務改善の5つです。このうちスタッフの定着に直接関わるのは人材育成とシフト・労務管理ですが、現場作業に追われると後回しになりやすいため、本社が店長の役割と業務量を整理しておくことが大切です。
Q. プレイングマネージャーの店長が限界を感じているときは、どうすればよいですか?
店長個人に頑張りを求めるのではなく、店長が担当している作業を洗い出し、副店長や時間帯責任者への権限委譲、繁忙時間帯の人員確保、外部人材や業務委託の活用で現場作業を減らすことが先決です。あわせて、本社が定期的に面談を行い、店長自身の負担や悩みを把握しましょう。
Q. 店舗ごとに離職率の差が大きいときは、どこから確認すればよいですか?
まずは離職が多い店舗で、入社から何か月以内に辞めているか、店長がどの業務に時間を使っているか、繁忙時間帯の人員が足りているかを確認しましょう。店長の指導方法だけでなく、人員配置や業務量に原因があるケースも多くあります。
まとめ|店長個人に頼りすぎない店舗運営体制へ
店長のマネジメントとスタッフの定着には、日々のコミュニケーションや指導体制だけでなく、店舗の人員配置や業務負担、本社によるサポート体制など、さまざまな要素が関係しています。
店長が現場作業に追われ、スタッフへの指導やフォローに時間を使えない状況であれば、個人の努力だけで解決するのは困難です。本社・人事部門・店舗運営部門が連携し、次のような視点から店舗運営の仕組みを見直しましょう。
- 店長がマネジメントに集中できる人員体制
- スタッフが相談しやすいコミュニケーション環境
- 店長や社員の業務負担を軽減する仕組み
- 店舗ごとの課題に応じた人材配置
- 本社による継続的な教育・サポート体制と、定着・育成を含めた店長評価
株式会社エムアールエスでは、小売業の現場における人手不足や人員確保の課題に対し、人材派遣の専門会社として、店舗の状況に合わせた人材確保をご提案しています。
「店長や社員の負担を軽減したい」
「繁忙時間帯の人員を確保したい」
「採用活動だけでは人手不足を解消できない」
このような課題をお持ちの企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
執筆者
株式会社エムアールエス マーケティング戦略課 主任 H・O
小売業で30年のキャリアを持ち、エリアマネージャーとして多数の店舗管理を主導。経営会議への参画や全社的な販売計画書の策定を通じて、店舗現場から経営戦略まで幅広く経験。
現在は小売業界に特化した人材ソリューション事業にて、店舗運営支援や人件費・採用適正化の分析、情報発信を担当。現場視点と経営視点を融合させた情報発信を行っている。
*現場で多くの離職に直面したからこそ、店長個人の責任にしない仕組みづくりの重要性を伝えたく執筆しました。
監修者
株式会社エムアールエス マーケティング戦略課 Y・M
小売業界歴20年|店舗運営・人材育成の現場エキスパート
小売業界で20年にわたり、店長・ブロック長・エリア長・教育担当として、店舗運営と人材育成に携わる。
新店立ち上げ時のスタッフ教育、既存店スタッフの接客・CS教育、新入社員研修など、店舗現場における人材育成を幅広く経験。
全国約300店舗を対象としたCS施策や臨店指導、8店舗のエリア統括にも携わる。
ドラッグストアでは、人事部の教育担当として中途採用社員や新店従業員の教育を担当するとともに、店長として従業員管理・予算管理も経験している。
保有資格・免許
- 中学校教諭一種免許状(国語)
- 高等学校教諭一種免許状(国語)
- 医薬品登録販売者
- 食品衛生責任者
- 酒類販売管理者
- レクリエーション介護士2級
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編集担当:マーケティング戦略課